刑事コロンボ「別れのワイン」

ぼろぼろのコートを着て、葉巻をしがみ頭をボリボリかきながら、「うちのかみさんがね!」のセリフで有名なご存知、刑事コロンボ。たくさんのシリーズ作品の中に名作として人気の高い「別れのワイン」があります。

(ここから先は、ネタバレとなりますのでこれから作品を見たいと思われる方は読まないでください。もっとも、コロンボ・シリーズは、最初から犯人が分かっていてそれを解決に導くという見せ方なので影響は少ないかもしれませんが。)

ワイナリー経営者がワインを愛するあまり、自分の弟を殺してしまいます。完全犯罪と思われた事件でしたが、コロンボは自らワインを勉強しその知識で最後は、犯人の類い希なるワイン鑑定能力を利用して犯人を自白に追い込みます。

最後のシーン。コロンボが自分の車で彼を警察に連れて行く途中、彼が愛したワイナリーの前で車を停め、ワインのボトルをグラスとともに手渡します。いまでは滅多に見ることのないワラで包まれたワインです。ラベルを見たカッシーニ氏がコロンボに言います。「モンテフィアスコーネ、最高のデザートワインだ。それに別れの宴にもふさわしい。よく勉強されましたな…」「ありがとう。何よりもうれしいお褒めの言葉です。」何だか二人には友情が芽生えたような・・・。

このシーンで飲むモンテフィアスコーネの銘柄は「EST! EST!! EST!!!」。「EST」はラテン語で「ある」という意味はただし、多く出回っているのは辛口ですが、セリフの中でデザートワインと言われていることからして甘口でしょう。

EST!EST!!EST!!! di Montefiascone
この名前がつけられたことには逸話があります。

西暦1111年、ローマ皇帝ハインリヒ五世はローマ法王パスカリス二世から戴冠を受けるためにドイツからローマに向かうことになりました。皇帝には、アウクスプルクの司教ヨハネス・デフックも随行することになります。彼は「大司教」という高位聖職者であるだけではなく、ワインに非常に造詣が深いことでも有名でした。

大司教は、信頼できるマルティーノを偵察隊として皇帝の旅行ルートに先に送り出し、おいしいワインを見つけておくようにと命令します。そして符牒として、おいしいワインがある宿屋には「EST(ここにありの意)」という印をつけ、抜きんでて美味のワインを見つけた場合には「EST」を二度書いておくように命じました。

マルティーノがモンテフィアスコーネに到着してこの地のワインを味わうと、そのうまさに感激して、「EST」を3回かき、さらに「!」マークを6つもつけて、皇帝が必ずこのワインを味わうよう大司教に伝えようとしたのです。大司教一行がモンテフィアスコーネに到着しそのワインを味わうと、その場を去ることが惜しいほどの美味。彼らは、ローマに向かうのを3日間延ばしました。

そして、ローマでの任務を無事に遂行したデフック大司教は、その足でモンテフィアスコーネに戻ってきて、心ゆくまでワインを堪能、果てはワインを飲み過ぎて1113年にこの地で亡くなった、というお話です。

大司教は、モンテフィアスコーネの人々の温かいもてなしに感謝し、生前にこの街に膨大な献金をしていました。モンテフィアスコーネのワインに惚れ込んだあまり死を早めたこの大司教の墓所は、現在もモンテフィアスコーネのサン・フラヴィアーノ教会にあります。墓所の碑文には「エストを飲み過ぎた我々の大司教ヨハネス・デフック、ここに眠る」とラテン語で記されています。

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