コルクの利用法

私のワイン談義の最後にこの話をどうぞ。

最近はスクリューキャップのワインでもいいものが出始め、事情がやや変わってきたが、それでも伝統的にはコルク栓が多く使われ、通常ならワインを開けるたびにコルクが一個手に入ることになる。私も昔はそのコルクはほぼゴミ箱に直行だったが、ワインを開けるたびその使われているコルクに違いがあることに興味を持った。天然物のコルクを使っていても、その長さも違う、またボロボロと崩れやすい質の悪いものもある。また、両端と本体部分を違うコルクで成型しているもの、また圧縮コルク、プラスチックのコルクなど様々である。

ワインをかなりの頻度で飲むようになった頃、ちょうど私は漆塗りを習い始めたところだった。それもオランダで。当時、オランダに日本人の漆芸家がおられ、その方に漆塗りの基礎から教えて頂いたのだ。そしていろいろ漆塗りの雑器も作り始めていたが、あるとき、ひらめいた。たくさん手に入るワインのコルクを何かに利用できないだろうか、これだけ毎日(?)のように出てくるものをただポイっと捨てるのはもったいない。でも、誰でも考え付く断熱効果を利用した鍋敷きなどはあまりに陳腐すぎる。とうことで、考えついたのがコルクの箸置きだった。もう20年以上前の話だ。

使うコルクだが、長い天然物が一番いい。圧縮コルクでも別に構わないが、プラスチックは使わない。ます質の同じコルクを揃え、それを縦半分に割る。大体55:45か60:40くらいに割り、その大きいほうのかまぼこ状のものを使う。その両端を斜めに削ぎ落とし、複数個作る場合はそれぞれの長さを揃える。かまぼこの中央を削り取ってくぼませ、成型する。

そして、それから漆塗りの工程に入る。コルクは意外ときめが粗く、最終的に滑らかな漆の面を作るにはいろいろな工程が必要だが、ともかくひと月以上かけてそれを一つ一つこなし、何度も漆を塗り重ね、最終的に窪みに色漆で彩色もして写真のような箸置きにする。この箸置きは、軽くてなかなか洒落ていると自分では思っていて、随分作った。一応、2個セット・5個セット・6個セットと、一体今までに何セット作っただろう。知り合いの方々にも随分差し上げたりした。

もちろん自分たち家族も日常でも自作の漆塗りの皿・椀・コップ・酒器・箸・スプーンなどと一緒に長年使っている。差し上げる時には,その方に一応お尋ねしてみることにしている「これは何でできているでしょうか?」と。しかし、今まで正解された方は殆どおられない。種明かしを聞いて「あーっ。」が第一声となる。これは作者としての喜びの瞬間でもある。中には、「一つのコルクで二つもできていいですね。」と言われる方もいるが、二つに割っただけではいい形のものはできないし、私のようにナイフ(いまだに子供時代に使っていたのと同じ「肥後守」を愛用している)を使っているものにとってはコルクを綺麗に割るのは意外に難しいのだ。コルクもコルク樫の樹皮である以上微妙な癖もあり、なかなか難しいものだ。
ともかく、そんなわけで、今でもたくさんのコルクは出てくるので、箸置きの材料には事欠かない。

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